向かいの新人ヨボヨボ隔離患者は無音で寝ている。付きっきりの看護師さんの不穏の態度も無音。ヨボヨボジジイ、無音の深夜のトイレに立つ。頭の中の籠る騒音だけが不快だ。無音の行路、無人のフロアーは目に見えて無音だ。トイレのドアは無音で閉まる。ズボンと紙パンツを下ろし便器に座るのも無音。排尿の音はかすかに聞こえる。便器の右脇の壁に冷たそうな金属の手すりがL字型に備え付けてある。その金属の心地よい冷たさに触れる度に右腕の手首からぶら下がる貴重品入れの鍵が手すりの金属をたたく、その音もかすかに聞こえる。ミーン、ミーン、ミーン、ミーン。
真冬のミンミンゼミの鳴き声は偽物なのだ。今聞こえる水洗の音も偽物なのだ。
金曜日の朝に携帯の充電器が届き、ヨボヨボジジイ空元気の自撮り写真を嫁に送った。
人手不足の週末のコロナ隔離病棟は何事もなく過ぎた。ラッキーストライク!
月曜日、隣の窓際のスペースに隔離患者入る。ヨボヨボだが元気だ。あと一人入室すれば、満員御礼!
突発性難聴が完治せず補聴器をつけた友人K.Y(73歳)元銀行員。宇宙の背徳者。
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