人は五感(視力、聴覚、臭覚、味覚、触覚)を通して世界に溢れている生命力の兆しを無償で感受できる。幸運なことだ。聴覚を失うと、歌や、音楽や、人の声。鳥のさえずりや赤ちゃんの泣き声や、優しいせせらぎの音は体内に入ってこない。その無償の生命力の兆しを今のヨボヨボジジイは受け取れないのだ。残念だが、記憶の歌や音楽ではヨボヨボジジイの体は震えない。
言葉はすごい、文字にできるし、記憶の言葉で心が動く。
ステロイド投薬の効果で両耳が雑音を拾い始めた。ヨボヨボジジイ空間を感じる。ヨボヨボジジイ、クーっと空腹を鳴らす。
同級生の言葉と、エズミの小さな弟の言葉を、ヨボヨボジジイは思い出す。
「パンツをはいたバナナ」同級生の言葉だ。
「ひとつの壁が隣の壁になんて言ったか?」「『角のところで会いましょう』じゃないか!」小さな弟のクイズと答えだ。
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