ステロイドの点滴投与が一週間で終わり、月曜から内服薬治療に変わった。隣のマスクヨボヨボは点滴スタンドを杖がわりに、よっちらこっちらトイレや歯磨きにいそしんでいる。ベッドの上で上半身を起こし、食事をする度ボロボロこぼす向かいのマスクヨボヨボに、フェイスガードさんは苛立ちを隠しきれない。以前から難聴だったマスクヨボヨボジジイの放蕩息子の左耳が、ここぞとばかり雑音を拾い始め、ガッ、ビイー、グワン、大きな音を頭に響かせマスクヨボヨボジジイを辟易させている。ステロイド点滴の効能は不良の更生だった。
耳鼻科のマスク先生にステロイド鼓室内注入療法をすすめられる。ステロイド点滴の結果が思わしくなかったのだ。鼓膜を切ってその奥へステロイドを流し込む治療、ギョエ!鼓膜を切る!ヨボヨボジジイ怯む、怯む。
1月26日(木)午前10時、コロナ隔離解除、マスクヨボヨボジジイ退院決定。翌日の金曜日に1回目のステロイド鼓室内注入療法が決まった。
1月23日。不良は不良だ、左耳が過敏に拾うのは雑音ばっか、肝心の人間の言葉は聞き取れない。退院まであと三日、マスクヨボヨボジジイの品の悪さが過敏になった。朝方4時の採血なんてお安い御用でっせ。フェイスガードさんの、「お通じありました」の言葉は、「クソ出た?、クソ出た?」のオバはんの茶化しに聞こえ、シャワー室の排水の悪さに誰の毛やねんと突っ込んだり、紙パンツを三日間履き替えず、クサ!1週間着っぱなしのユニクロのヒートテックはまだ3日はいける匂いだとマスク娘にラインを送った。クサ!クサ!クサ!
下腹が張り、苦しくなったマスクヨボヨボジジイは、二度あることは三度あるんじゃ、突発性難聴、突発性偽尿意、そして突発性排便じゃ!夜中にサイドレールをグラグラ揺さぶった。「腹が痛い、浣腸したい」とヨボヨボジジイは無理矢理口角を上げて、若いフェイスガードに媚びた。
510号室はカーテンで四つに仕切られており、真ん中の通路の奥にスポットライトを浴びた簡易便座が品格を持って鎮座している。ウイヒヒヒ。どうせなら三人のマスクヨボヨボの肛門に浣腸をぶち込み、今宵深夜、マスクヨボヨボ対抗便器争奪戦を勃発させよう。3人の肛門から打ち上がるドロドロの花火を想像して口角を上げているマスクヨボヨボジジイの手のひらに、若いフェイスガードはピンクの小さい粒を二つそっと落とした。
耳の奥の鼓膜を切る。ウッヒャー!マスクヨボヨボジジイ、怯む怯む。喜怒哀楽が過敏になるのも致し方あるまい。

仁王立ちするフェイスガードさんの影は苛立っている。

コメント