原発の町18 2020年、感染爆発したコロナウイルスは、世界中のヨボヨボ達を容赦なく殺していった。原発建設時の混乱を体感した伊方町のヨボヨボの大半は、幸運にも寿命が尽きるまで生きのびた。

 2019年11月4日、丹野スズは八幡浜保内へ帰った。伊方町民は100,000人が残したゴミの撤去に辟易していた。火星の居住空間として具現化されていく黒島を、島内に住む3本足の黒猫は静かに見守った。ドームの南側上部には太陽光パネルが並び、空気清浄フィルター、海水清浄フィルターがそれぞれドームと海中の四方の壁に設置された。現地資材を最大限に使った3階建ての住居も南の海岸に建設された。

 2020年1月15日、日本で最初に確認されたコロナが、全国に感染拡大した2022年2月頃になっても四国の西端、伊方町民は危機感を持たなかった。2021年7月23日から8月8日の東京オリンピックの開催中、青、黄、黒、緑、赤色に発光するドーム内を伊方町民は苦笑して遠望した。

 2022年夏。黒島の南海岸にある洞窟内で三本足の黒猫は死んだ。

 2022年秋。瀬戸の銀ジジイ、コロナ感染で死んだ。「大口を開けて笑っているワシをテレビニュースで見た大阪の娘が入れ歯代ゆうて送ってきた100,000円は、ワインとパチンコで消えたがな。内緒やで・・・大丈夫や、この3年間、娘の前では口を開けて笑わんかったが」

瀬戸の銀ジジイ(享年87)

 

 2022年冬。豊之浦の万吉ジジイもコロナで死んだと噂がたったが、事実は老衰自然死だ。「缶ピースからハイライトからきざみたばこ、それにババアの・・・・なんでも吸ったがな」

豊之浦の万吉ジジイ(享年78)

 2023年。仁田之浜のMのさとみババア(享年93)老衰自然死だ。

 2025年。町見の厳ジジイ、ボケまくって毒キノコ食う。「にいちゃん、今何時や?」会う人ごとに時間を聞きまくって死んだ。

九町の厳ジジイ(享年91)

 

 2028年。大浜の弥次郎兵衛ジジイ、老齢に勝てずバランスを失い桟橋から海へ転落、水死。「ヨボヨボ3人で、一度黒島のドーム内を覗きにいったが、セックスしておった宇宙人がわしらに気づいて光線銃を発射しおったが」「あそこには金髪の宇宙人が住んでるが」

大浜の弥次郎兵衛ジジイ(享年99)

 

 同年、豊之浦のヨシアキジジイ(漁師)コロナで死んだ。「わしとウオは五分五分の付き合いやったと思うが」「バカどうしやが」

豊之浦のヨシアキジジイ(漁師享年75)

 

 2029年。伊方町の海の放射線量が自然値に戻ったと四国電力が発表した。

 

 2030年。中浦の一作ジジイ、正月に喉に餅を詰まらせ窒息死。「ワシはイギリス好きのパン派や」とぬかしておった一作ジジイ、喉に餅を詰まらせ、古風なレシピ通り掃除機を使ったが、吸引力がハンパなく肺臓心臓まで吸い出されて死亡。(掃除機はダイソン)

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: I-953x1024.jpg
中浦の一作ジジイ(享年89)

 

 2031年。三崎の松ジジイ、補聴器の装着をサボり自転車のリンが聞こえず、追突され頭部を強打し死亡。「ああ、若ハゲやった。30代でツルツルピカピカや、しょげるかいな、佐田岬半島の灯台だが」

三崎の松ジジイ(享年88)

  

 2034年。大浜のミツジジイ、シン感染症であっけなくお陀仏。「FMラジオ鳴りっぱなしの頭の中で平行棒の選手がぐるぐる回転してるがな。突発性難聴やが、2023年コロナ感染の後遺症やが。血は争えん、ワシは背徳者やが」

大浜のミツジジイ(享年81)

 

 2038年春。八幡浜保内の菊地のジジイ、自転車バカ、内子町まで行ってくると電動ロードバイクで出発したが、夜昼トンネル内でダンプカーに轢かれロードバイクもろともペシャンコにされる。

保内宮内の菊地のジジイ(享年85)

 

 2040年。二見のガンジジイ、膵臓癌で死亡。わしが10歳の頃、原発反対のプラカードを掲げる親父と湊浦の町役場まで行進した事があるが。「子供の岩壱をだしに使うな!」高校生の姉ちゃんが泣きながら父ちゃんに訴えたが。わしの家は貧乏やったが、姉ちゃんは修学旅行費を工面するためにバイトしてたが、「生きたタコなら少しは金になる」漁協のテイジさんにアドバイスもらった10歳のわしは竹で作ったカナツキを抱えて素潜りでタコ取りに行ったが。水深3メートル程の海底の黒い穴を潜ってのぞいたらタコの目ん玉が光ってた。息継ぎに上がって、ゴムを目一杯のばしたカナツキをつかみ再び潜って黒い穴に突先を入れ、カナツキを放した、鋭く穴の底に突き刺さった2メートル程のカナツキに、黒い穴から這い出たタコの脚一本がまとわりつきその先端がカナツキの中ほどまで達したが。タコはジワリ穴の中へ脚を仕舞うと、竹のカナツキごと穴の奥へ奥へ退避し始めた。カナツキを無理に引っ張っぱればすっぽ抜けタコを逃す。10歳のわしは息を大きく吸い、潜り、カナツキの周りの石や砂利を素手で掘り穴を大きくしていったが。その濁りにベラやクサフグが集まった。苦しくなると浮上し海面から飛び出し息を吸い、反転し潜り穴を広げた。苦しかったが4、5回繰り返すと小型のユンボで削り取った程の穴になり、濁りの中へ両手を入れタコの頭とカナツキを掴み、腰を落とし、タコを地球から引き剥がすために、わしは両足で海の底を蹴ったが。タコは大きかったが。10歳のわしはタコを右肩から背中に張り付けて漁協まで運んだ。びっくりした漁協のテイジさんはすぐにタコを引き剥がし泣きそうな顔で2000円くれたが。10歳の小さな右肩から背中一面へ放射状のタコの吸盤痕が刺青のように残り、その先端は胸の前で交わったり。尻から太ももまで達していたが。それが気に入ったわしは、28歳の時本物の刺青を彫ったがな。

九町二見のガンジジイ(享年81)(姉ちゃんの修学旅行のお土産はゴジラのプラモデル)

 

 2041年。中之浜のスミババア(享年95)自然死。最後は真っ黒けのミイラ状態だった。

 伊方原子力発電所の誕生を肯定し、または憂えたヨボヨボ達が死んで行く。

 2042年。現実を目の敵にする大浜のシゲババア(享年94)、八幡浜で二度目のコンビニ強盗を決行するも、店員のロボットにヘリウムガスをしこたまぶっかけられ、「カネダセ」の自分の声に笑い死ぬ。

伊方越の直ジジイ、スイカを食べて黒いタネの水玉模様のクソをひるのが夏の風物詩やった。

伊方越の直ジジイ(享年91)ガキの頃のあだ名は「スイカ」孤独死。

  

 八幡浜のこうジジイ、持病の糖尿病で痩せ細り心臓発作で死んだ。高校生の時、ロミオとジュリエットのオリビアハッセーに魂抜かれる。

八幡浜のこうジジイ(享年92)「わしの下半身は死ぬまでロケットやが」が口癖。

 2043年。瀬戸のハマジジイ脳溢血で死亡。「汗びっしょり力んで地球大のクソをひり落とした痛みやったと便器を覗いたら、クソ!ウインナーソーセージやったが」

瀬戸のハマジジイ(享年94)脳溢血で爆死。

 

 2045年。伊方原発誕生(1972年)の混乱を体感した生き残りは、保内の丹野スズ(98)と大浜の源ジジイ(109)と伊方原子力発電所(68)だけになった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました