うなだれて車椅子に乗った511号室のおばあちゃんが退院。焦茶色のダウンジャケットに、小さな紙袋を一つ膝に乗せて。看護師さん一人付き添う。5F、ナースステーションの前のエレベーターに乗り込む。看護師さんが話しかける。おばあちゃん小さく笑う。1Fに着く。「ばあばあ!」ポニーテールの女の子が車椅子に走り寄ると、ばあばの小さな手がその子の頭に乗る。「おかえり」娘夫婦とばあばの友達が笑顔で待ちわびていた。絶対にそうだ。
防護服を破り、脱ぐ、脱皮だ。看護師さんは何度も脱皮する。
よりそうは看護師の責務だが、最上位ではない。
2、3日前から気になっていたことがある。このヨボヨボがトイレから帰ると、仕切りのカーテンが波打ち隣のヨボヨボがそそくさとトイレに立つ。それが2、3回続くと、逆に隣のヨボヨボがトイレに立つと、このヨボヨボももよおしてくる。そしてついに、夜中に2度も、ヨボヨボ2人がトイレでかち合ったのだ。幸いトイレは2ヶ所あって助かったが。
コ、コ、コ、コレは、突発性連れション症候群! ギャー!
突発性難聴、突発性尿意症、突発性連れション症候群、二度あることは三度あった。
入退院の連鎖が続く510号室のヨボヨボジジイ達は幸運なのだ。このヨボヨボジジイも、明日退院。突発性難聴不治。
真夜中の怪。
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