原発の町5 三毛猫が天へ走った翌日。放射能の有無を調査するために、老婆2人は行動に出た。

 「黒猫さん、お尋ねしたいんですが」

「・・・・黒猫さん、お尋ねしたいんですが」

 耳が遠いのか2度目の呼びかけでようやく振り返った黒猫は、目も悪いのか、それとも私らの格好が変なのか、私たちを2度も2度見した。

 「黒猫さん、左耳が黒い三毛猫さんを、ご存じありませんか?わたくし、保内から来た丹野スズと申します。昨日まで歩くことができず車椅子で生活してたの。それがビックリ、今朝起きたら全身ピンピン、サッと1人で立って歩いてトイレに行けちゃったの。私、ピーンときたの、昨日の昼ごろ会いにきてくれた三毛猫さんが運んできた幸運だと。だからその感謝のお礼を伝えたくて」

 無表情の黒猫に「・・・ごめんなさいね、その三毛猫さんこの町にいるとは限らないわね」

 「すごい格好でしょう。放射線防護服」と丹野スズ。

 「わたしね、心配性なの」防護服のゴワゴワの指が町の西をさした。あの半島の向こう側に50年前に建設した伊方原子力発電所があるでしょう。私の住居は隣町の保内町だけど、福島原発の事故後、心配性だから私ガイガーカウンターを常備してるの。2ヶ月前に、それを充電しようと窓のそばに置いたの、そしたらビックリ、ガリガリガリガリ、ガイガーカウンターが反応したの。えー?放射線?原発事故?私それを持ってご近所中走り回ったの。あら不思議、全然反応しないの。もしかしたらと思って、ガイガーカウンターのバッテリーをフル充電してご近所中を回ったけど反応なし。反応するのは、3ヶ月前、三毛猫にぶっかけた海水の跡だけ。とにかく町役場へ報告せねばと焦ったのが不幸の始まり、玄関で転んで脚と腕を骨折、それから2ヶ月間車椅子生活。

 結局、私の家の放射能は人身に影響のない線量だとわかって、保内の役場はそれっきりこの2ヶ月なしのつぶて。放射能汚染の疑いがある隣町の伊方町も沈黙したままなの。で!早速、体が自由に動くようになったから、ガイガーカウンターを携えて確かめにきたの。三毛猫にぶっかけた伊方町大浜の海水の放射能の有無と線量を・・・・・。

 「紹介するの忘れてたわ、私の同級生浜野シゲ、ここ大浜の人よ。放射能汚染って不穏な感じがするから、助っ人?というか用心棒を頼んじゃった。愛媛県剣道大会準優勝、彼女はタフよ」

 3本足の黒猫が、ピョコピョコ防護服に近づいてきた。ガーガーガリガリ!ガーガーガリガリ!ガイガーカウンターが反応した。慌てふためく防護服がゴワゴワ、ゴワゴワ唸った。

 「エー!黒猫さん!・・・あなた?」

防護服がガイガーカウンターを黒猫に近づけると、ガーガーガリガリ!ガリガリガリガリ鋭く反応した。

「大変!すぐ伊方町役場に報告しなくては」と防護服がゴワゴワ反転しゴワゴワ走り出した。

 「もう解決済みだ、よそ者が出しゃばるな!」ヨボヨボのロボットが威嚇するように桟橋の中央に立ち塞がっていた。

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