「もう解決済みだ、よそ者が出しゃばるな!」桟橋の真ん中に立ち塞がって威嚇してくる不穏なヨボヨボロボットに、用心棒シゲは竹刀を上段にかまえて、にじり寄っていった。
「シゲ、わしや、源ジイや」ヨボヨボロボットの声が後退った。
「竹刀を下ろせ。わしの話を聞け」ヨボヨボロボットの声に懇願が滲んだ。
3ヶ月前やったが、死んだ魚が2、3匹、ここの浜に打ち上った。最初は気にもとめなかったが、一週間も続くと胸騒ぎがして、わしは死んだ魚を調べてみようと浜へおり波打ちぎわへ行ったんじゃ。わしゃあ肝を潰した。突然ガーガーガリガリガーガー、ガーガーガリガリガーガーわしがが反応したんじゃ。
「源ジイが反応した?どういうことじゃ!」用心棒シゲの竹刀が水平になった。バシッ!源太ジイは金属の杖で竹刀を払った。
「このわしがガイガーカウンターやが!」
「マジ?・・・か!」防護服2人はヨボヨボロボットをスキャンするように目線を上下に動かした後、思わず鼻で笑ってしまった。
フン!わしはすぐ町役場へ走り、洗いざらい告白したが。46年前、わしらが黒島の洞窟に隠した爆弾は単なる不発弾じゃなくて、原子爆弾やった。それが腐食して放射能が流出し始めたんじゃ、伊方の海はもう放射能で汚染されとるがや!わしは必死で訴えたが。じゃが、町役場の担当者に一笑にふされたが。もしあれが本物の原子爆弾なら、原発反対のわしゃ死んでも死に切れんが。覚悟を決めたわしは四国電力の方へ話を持って行って、原発担当者の耳に口を近づけ密告するように囁いたが。「原発から放射能漏れてまっせ」
一週間後、わしと町長と役場の原発担当者は県庁へ呼ばれたが。
四国電力と県が動き、町内及び近辺の放射線量検査が秘密裏に徹底的に行われ、人体に影響が出る線量ではないと結果を出していたし。日本とアメリカがエンデイングを決めていたがや。放射能汚染の事実は公表し、原因は放射性物質を含んだ謎の漂着物にすると。
わしは叫んだぞ!国や県の偉い人の前で、わしは叫んだが!伊方湾の海が放射能汚染されとるがやったら、それは黒島の原子爆弾から流出したがや。その原子爆弾を隠したのはこのわしじゃ、本人が告白しとんのや間違いないわ!黒島へ行って証拠写真を撮ってネットでばら撒くぞと。アメリカの過去の失態と日本政府の隠蔽の事実を!・・両国の大嘘をバラしてやるわ!と。フン、国や県の偉い人は冷ややかにわしを見とったが。
「どうぞご自由に」その中の一人が笑いながら言いよった。わしはピーンときたが、こいつら一週間の間に原子爆弾を取り替えやがったなと。町長!こいつら原子爆弾のことを隠蔽しようとしてるぞ、わしらの伊方町を愚弄してるが!
興奮したわしの金属スーツから、天地真理の「恋する夏の日」の歌が流れ出たが。金属スーツに内蔵された血圧上昇見張りくんの自動スイッチが入ったんじゃ。1人だけ失笑したやつがおったわ。 「もう一つ決定事項があります」そいつが言いよった。「安全大国を謳う我が国は、微量ながら放射線を放出する黒島をコンクリートで覆い固め、隔離封鎖する事に閣議決定いたしました」・・。「要するに、黒島を生き埋めにすると言うことです」天地真理より甲高い声で言いよったが。
♪愛することを♪初めて知った♪2人の夏よ♪消えないでね♪どうかずっと♪ 「恋する夏の日」が流れるなか、わしは土下座しプラスチックの床におでこを擦り付けて懇願したがあ。
「黒島を殺さんといてくれ!」
「そうですか、私が放射能汚染だって騒いでた時にはもう、この問題は解決してたから伊方町は沈黙を通したのね・・・。」丹野スズはガイガーカウンターを黒猫に近づけてた。ガーガーガリガリガリガリ、ガーガーガリガリガリガリ。
アメリカがプロポーザルを出してきたんじゃ。ああ、提案のことじゃが。アメリカ政府が責任を持って「ブラックアイランド」を完全に隔離封鎖したいと、構造、設備において条件があれば全て飲むと。「ノープロブレム」わしはそれにのったが。何か魂胆があるかも知れぬが。わしが不発弾を黒島に隠したのが最悪の事態の始まりじゃ。冥土の土産じゃ。わしはふたたび大罪を犯すが。
「わしは沈黙するがや!黒島に原子爆弾はなかったんや!」
パーン!用心棒シゲの竹刀がヨボヨボロボットの横面にめり込んだ。ヨボヨボロボットは杖を着く間も無く、ゴツゴツしたコンクリートに全身を打ちつけ転がった。
ヨボヨボロボットは大の字になったまま喋り続けた。「今日の夕方には、イタタタ、政府から放射能汚染の発表があるがや。伊方町民はパニックに陥るかもしれんが。しかし身体に影響のない線量なのは確かなんや。今まで通りの生活ができるがや。風評被害の補償の給付も完全や。日米両国政府の決定事項やが、もうどうしようもないがや。ヨボヨボロボットは天に向かって喋り続けた。アメリカ軍はこの3ヶ月間、綿密に調査し、計画を練り、黒島を隔離封鎖する準備を進めてきた。アメリカ軍が威信をかけた「ブラックアイランド隔離封鎖大作戦が、明朝からスタートするがや!」
「原発の町、伊方町が原子力爆弾も保持していたと正直に告解しみい、国民から総スカンを喰らうがに、決まっとるがや。伊方町民は全員沈黙するしかないがや」
ヨボヨボ三人と猫1匹の沈黙で、伊方町の良心の半分が欠けたような気がするのに・・、伊方町民全員の沈黙とは・・・・。丹野スズは深いため息を吐いた。
3本脚の黒猫はヒョコヒョコ歩き、横たわるヨボヨボロボットの傍で「ニャー」と鳴いて寝そべった。ガーガーガリガリ、ガーガーガリガリ、ヨボヨボロボットのガイガーカウンターは、浜野シゲの横面で転がった衝撃に故障もせず、黒猫の放射能を反応している。
防護服の丹野スズは「よそ者ですが、私も沈黙します」と敗北者のように声を落として、ガイガーカウンターを黒猫に近づけた。ガーガー、ガーガー、ガーガー、ガーガー。
30年以内に70%の確率・・・丹野スズの頭に不吉な数字が浮かび上がった。
ガーガー、ガーガー、ガーガー、ガーガー。
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